パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
「みんなは二葉と部長のことは知らないからさ」
「うん……」
私だって、きっとみんなと同じだ。
私が当事者じゃなかったら、同じように不思議に思ったかもしれない。
絶好のチャンスなのに、それを棒に振るのかと。
「友里恵さんって言うんだっけ? 社長の娘って」
「そうなの? 私は知らない」
琴美に聞かれて、首を横に振った。
知りたくもない。
「これも噂話なんだけど、その友里恵さん、ちょっと前まで神戸にいたらしいの」
「神戸?」
「部長がここへ来る前にいたのも神戸だよ」
ピンとこない私に琴美が補足してくれた。
そうだったっけ。
新任の挨拶をきちんと聞いていなかったことを窘められた、歓迎会の席でのことを思い出した。
「もしかしたら友里恵さんは、神戸支社にいたころの相原部長を知っているのかも。本社に異動になったのも、友里恵さんが関係してるんじゃない?」