パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを

愛を振りかざせば、何でも許されると思ってるの?
それは、ねじ曲がった愛情でしかない。


「相手が辛い思いをしてもですか?」

『そんなこと……あなたにどうこう言われたくない。それに、私と結婚すれば、将来は約束されたも同然。途中経過が多少辛くたって、結果的に彼は幸せになれるんですから。それとも、あなたは私より彼を幸せにできるとでも言うの?』

「私は部長を――」


幸せにできる……?


不意に浮かんだのは、資料室で肩を落としていた部長の後ろ姿だった。
無理に笑って見せた部長の横顔は今でも頭から離れなくて、「幸せにできる」と即答できない自分がもどかしかった。


『できないわよね?』


友里恵さんが鼻先で笑う。
ものすごく悔しかった。


『とにかく、彼をあのままでいさせたくなかったら、早く別れることよ』


言いたいことを言うだけ言って、電話は切られたのだった。

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