パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
上目づかいで私を見上げる菊池部長。
じっと凝視されて、思わず視線を逸らしてしまった。
「あ、あのですね、ついでに、切らせてしまったコーヒーでも買って来ようかな、なんて」
正当な理由がないから、ついしどろもどろになる。
……ダメだよね、やっぱり。
そうそううまい具合に用事なんてあるものじゃない。
「すみません、何でもないです」
菊池部長に心の内を読まれそうで、怪しまれる前に諦めて自分の席へと戻った。
夜にでも、また連絡してみよう。
そう思い直したときだった。
「コーヒーがなくちゃ始まらん」
「はい?」
顔を上げると、部長が困った顔で私を見ていた。
「コーヒー、切れてるのかね?」
「あ、はい。さっき部長に淹れたのが最後なんです」
「それは一大事だ。今すぐ買って来てくれないと困るよ」
部長は眉尻を下げた。