パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
◇◇◇
風のない穏やかな海は、冬本番だというのに暖かささえ感じた。
砂浜に降り立ち、何となく黙る私たち。
部長は今、何を考えてるんだろう。
会社から遠く離れても、仕事のことが頭から離れないでいるのかな。
それとも、何も考えずにただ海をぼんやりと見てる?
「俺の顔に何かついてる?」
気づかれないように部長の横顔を盗み見ていたつもりが、すぐに気づかれてしまった。
少し翳りのある視線。
その理由が分かっているだけに、胸が締め付けられる。
「あ……いえ。……今日は何もかも忘れて、一日楽しみましょうね」
ね? と部長に念を押し、ふたり並んで歩き出す。
ふたりであの時に作った砂の城は、当然のことながら跡形もなくなくなっていた。
足元に転がっていた流木を拾って、波が綺麗に白紙にしていった砂浜に大きく円を描く。
その中に目と鼻と口を描き、「これ、部長の顔です」と、おどけて笑って見せた。
「おいおい、俺はこんなにヒドイ顔か?」
不服そうに腕を組んで、九部長が私を睨む。