パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
◇◇◇
誰もいない砂浜にレジャーシートを敷き、私たちはお弁当を食べ終えた。
「寒くないか?」
「はい、大丈夫です」
部長といるだけで温かい。
ふたり並んでゴロンと寝転んだシートは、砂の感触が背中に心地良かった。
真冬とは思えない穏やかな波音を聞きながら目を閉じる。
瞼に感じる柔らかな日差しに、つい現実を忘れてしまいそうになる。
けれど、部長とふたり笑うその裏で、どうやったって消せない現実があった。
全部嘘ならいいのに。
テレビの企画みたいに、ドッキリだったらいいのに。
いっそのこと、きれいさっぱり忘れてしまいたい。
私たちを脅かすこと、全部を――……。
不意に部長の口づけが舞い降りて来た。
「眠ったのかと思った」
目を開けると、すぐそばにある部長の顔。
優しい微笑みに笑い返した。
「……眠ってないです」
眠りたくなんてない。
部長といる時間は、一分一秒だって惜しいから。
もう一度触れ合った唇。
部長の背中に回した腕に力を込める。
それに応えてくれるように抱き締め返してくれる部長が愛しい。
好き。
大好き。
ずっと大好き。
離れたくなんてない。
でも――。