パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを

◇◇◇

「おやすみなさい」


海からの帰り道。
家の前まで送ってくれた部長の車のドアを閉めた。


「泊まっていけばよかったのに」


助手席の窓を開けて、部長が顔を覗かせる。
私だって、そうしたかった。
部長と過ごす時間を、出来るだけ引き延ばしてしまいたかった。
でも、そうしてしまったら、ズルズルと歯止めが効かなくなってしまう。

もう一度ドアに手を掛けて車に乗り込んでしまいたい気持ちを必死に押し殺した。


「明日は仕事ですから」


そう言う私に、「そうだな」と頷くと、部長は軽く左手を上げて車を発車させた。

部長が行っちゃう……。
テールランプが見えなくなっても、その場から動けなくて、冷え込んできた夜の空気の中、しばらくそのまま立ち尽くした。


「そんなところで何してんだよ」


玄関のドアからあっくんが顔を出す。


「風邪ひくから早く中へ入れ」

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