パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
「あ、うん……」
溜息と一緒にふぅと大きく吐いた息が、目の前を白く染めて消えていった。
コートを脱ぎながらリビングへ入ると、お父さんとお母さん、ふたりの姿が見えなかった。
まだ帰って来ていないのかな。
そういえば、旅行へ行くとか行かないとか。
そんなことを言っていたかもしれない。
ぼんやりとそんなことを思いながらソファに腰を下ろした。
「顔色悪いぞ?」
「……そう?」
顔を覗き込んだあっくんに首を傾げて見せた。
「……何かあったのか?」
「何も……」
笑って誤魔化そうと思ったのに。
何もないよと、笑顔で答えようと思ったのに。
あっくんの優しい顔を見たら、唇が震えて言葉が続かなかった。
もう少ししたら、部長が私の手紙に気がつく。
今朝、部長の部屋のテーブルにそっと置いてきた手紙に。
本当なら、自分の口から言わなくちゃいけないことなのは分かってる。
置き手紙だなんて、卑怯な手段だって分かってる。
でも、部長の顔を見てしまったら、決心が揺らいでしまう。
私から別れを口にすることなんて、とてもじゃないけど出来ないから。
「二葉……?」
隣に腰を下ろしたあっくんが、私の肩にそっと手を置いた。
「……ねぇ、あっくん、お願いがあるの」