パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを

この時をやり過ごすことだけをひたすら考えていた。
何日もこの怒鳴り声が続くわけではない。
今この時さえ我慢すればいいのだから。


「とにかく、今夜はもうよしましょう。ほら、二葉ちゃん、二階に上がって休みなさい」


お母さんに腕を掴まれた。


「勘当だ」


ゆっくり立ち上がろうとした私に、お父さんがきっぱりと告げた。

……やっぱり。
お父さんの出す答えがそこに行き着くだろうということは、想定内だった。


「……分かった。近いうちに出て行くから」

「二葉ちゃん!」


私を呼び止めるお母さんの声を背に受けながら、部屋へと戻った。
それからすぐのことだった。


「二葉、入るぞ」


ノックと共にあっくんが中に入って来た。
ものすごい剣幕だったから、二階にいたあっくんにも、さっきのやりとりは聞こえていたに違いない。

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