パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
③パッシングレイン
四年後――。
「マスター、ただいま戻りました」
「おう、二葉ちゃん、買い出し御苦労様」
コーヒーのいい香りが立ち込める喫茶店Sea side。
行くあてのなかった私が唯一浮かんだのは、海のそばのこの場所だった。
部長が迎えに来てくれた、この店。
部長への想いに気づいた、あの海。
ここ以外のどこにも、自分の居場所は見つけられなかった。
大きな荷物とお腹を抱えて辿り着くと、あの時と同じように温かく私を迎えてくれて、無理を承知の上で働かせてくれたマスターには、感謝してもしきれないほどだった。
「二葉ちゃん、そろそろ海二(かいじ)くんの迎えの時間じゃないのか?」
店の壁に掛けてあった時計を仰ぎ見る。
「――あっ、ホントだ。すみません、マスター、ちょっと行ってきますね」
カバンを肩に掛け、店を後にした。