パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
「……いや、何でもない」
言いかけたくせに、今度は誤魔化す。
「やだ、気になるじゃない」
「本当に何でもないんだ。気にしないでくれ」
あっくんは、そのまま運転席へと乗り込んでしまった。
……変なの。
何か隠していそうな様子が気にはなったものの、後部座席からお母さんが手を振ってきたことで、興味が逸れる。
「二葉ちゃん、いつ帰って来てもいいんだからね?」
お母さんが助手席の窓から私の手を握る。
「……うん、ありがと」
「本当はね、お父さんがそれを一番望んでるの」
お母さんがこっそり耳打ちした言葉がやけに嬉しかった。
後部座席で両腕を組んでどっしりと座るお父さんには、そんな素振りさえ見えないけれど。
「これからは、ちょくちょく来るわね。身体には気を付けるのよ?」
「うん」
「海二くん、またね」
お母さんが手を振ると、私に抱かれた海二もバイバイと手を振った。