パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
◇◇◇
鼻歌交じりに食器を洗う。
あっくんからの予想外の“プレゼント”は、四年分の心の荷物を一気に軽くしてくれるものだった。
一生会えないという覚悟もしていたから。
「二葉ちゃん、今日は店に出なくてよかったのに」
コーヒー豆を挽きながら、マスターがたしなめる。
「いいんです。海二も大人しくひとりで遊んでくれてるし」
店の隅でひとり、絵本を読んだり、ミニカーで遊んでいる海二を指差した。
それに、忙しい日曜日のお昼時。
休みなんてもらえる立場じゃないのだから。
「俺は助かるけどね。何せ、二葉ちゃんはすっかりこの店の看板娘だからさ」
「やだな、マスターってば」
それは大袈裟な誉め言葉だ。
だって、この店の従業員は、私以外みんな男性なのだから。
つまり、必然的に看板娘になってしまう。
「いらっしゃいませ」
マスターの声に続いて、「いらっしゃいませ」と顔を上げた。