パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを

◇◇◇

鼻歌交じりに食器を洗う。

あっくんからの予想外の“プレゼント”は、四年分の心の荷物を一気に軽くしてくれるものだった。
一生会えないという覚悟もしていたから。


「二葉ちゃん、今日は店に出なくてよかったのに」


コーヒー豆を挽きながら、マスターがたしなめる。


「いいんです。海二も大人しくひとりで遊んでくれてるし」


店の隅でひとり、絵本を読んだり、ミニカーで遊んでいる海二を指差した。
それに、忙しい日曜日のお昼時。
休みなんてもらえる立場じゃないのだから。


「俺は助かるけどね。何せ、二葉ちゃんはすっかりこの店の看板娘だからさ」

「やだな、マスターってば」


それは大袈裟な誉め言葉だ。
だって、この店の従業員は、私以外みんな男性なのだから。
つまり、必然的に看板娘になってしまう。


「いらっしゃいませ」


マスターの声に続いて、「いらっしゃいませ」と顔を上げた。

< 242 / 282 >

この作品をシェア

pagetop