パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
日差しが増した、夏の午後。
燦々と降り注ぐ太陽の光がドアから差し込んで、咄嗟に目を細める。
ゆっくりと入って来たひとりの客に、目を奪われた。
――ガッチャーン!
指先を滑って落ちた、泡だらけのコーヒーカップ。
その音に驚いて、海二が「ママ、大丈夫?」と駆け寄ってきた。
「ここに……いたんだね」
部長だった。
再会は、あまりにも突然だった。
一瞬、心の奥底に何重にも鍵をかけてしまっておいた想いが見せる幻影なんじゃないかと思った。
目の前に部長が……。
店内のざわめきも周りの景色も、何も聞こえない。何も見えない。
お互いに、何も言葉を発せないまま見つめ合う。
止まってしまった時間を動かしたのは、海ニが私を呼ぶ声だった。
「ママ? ねぇ、ママってば」
海ニは、エプロンを引っ張って、私の顔を見上げていた。