パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
◇◇◇
「マスター、昨日はすみませんでした」
開店前のお店。
他の従業員もまだいない店内で、開店準備に取りかかるマスターに頭を下げた。
「それはいいんだけど、彼って、“いつかの彼”だよね?」
マスターは部長のことを覚えていたらしい。
私がここで部長を待っていたときのことを話し始めた。
「海ニくんの父親なんだろう?」
ドキリとするひと言に黙り込む。
それは、肯定しているも同じだった。
「どういう経緯があったのかはわからないけれど、話も聞かずに追い返すのはよくないんじゃないかな?」
諭すように優しく言う。
「彼、また来るって言ってたよ」
「え……」
どうして?
何のために?
友里恵さんと結婚して、幸せな生活を送っているんじゃないの?
部長の行動が全然分からなかった。