パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
◇◇◇
それから部長は、マスターに告げた言葉どおり、毎週日曜日になると、この店に足を運んできた。
正確には、店の外に。
中に入ってくると、店に迷惑が掛かると思ったのかもしれない。
朝から晩まで外の植え込みに座って、私が出てくるのをひたすら待っていた。
「あのお兄ちゃん、今日もいるね。どうしたんだろうね。ねぇ、ママ、何してるのかな?」
海ニもさすがに不思議に思ったらしい。
窓から見ては、私に何度も聞いてきた。
「うん……そうだね」
「わからないことは、直接聞くしかないんじゃないかな?」
いつも曖昧に返すばかりの私に、マスターが穏やかに微笑んだ。
お客様の応対をしながら、外の様子が気になっていたのは確かで、マスターはそんな私を見越して言ったのかもしれない。
ふと視線を投げ掛けると、さっきまで見えた部長の姿がなくなっていた。
いつもなら、またすぐに戻ってくるのに、今日は随分長い時間、姿が見えない。
どこに行ったんだろう。
もしかしたら、とうとう諦めたのかもしれない。
痺れを切らして、帰ったのかもしれない。