パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
◇◇◇
久しぶりに浜辺へと来た私たち。
秋の始まりの海は、どことなく寂しげに見えた。
絶対にひとりで海に行っちゃだめよ。
いつも言い聞かせていたから、久々の海に喜んで、海二は私の手を引いたままぐんぐん足を進める。
そして、私が波打ち際に部長の背中を見つけたときには、ひとりで走り出してしまった。
「海ニ! 海には入っちゃダメだよー?」
波音に掻き消されないように大きく叫ぶ。
すると、その声に部長が振り返った。
眩しさに目を細める。
立ち止まった私に、部長はゆっくり近づいてきた。
何を言われるんだろう。
今さら、私と会ってどうするつもりなんだろう。
募った不安が、逃げ出したい衝動に変わっていく。
足を一歩後ろへと引いた。
「逃げないで!」
部長の言葉が身動きを封じる。
私の目の前で立ち止まった部長は、ホッとした様子で元気なく笑った。
「やっと会ってくれたね」