パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
「部長は……どうしてここに?」
たまたま立ち寄った懐かしい店に、私がいただけなの?
それとも……私を探して?
つい期待が膨らむ。
「もう、部長では……ないんだ」
「……そう、なんですか……」
友里恵さんと結婚したのだから、出世して取締役になっていてもおかしくない。
探してくれていたのかも、と少しでも思った私は、なんて妄想が逞しいんだろう。
勝手に都合のいいように解釈して、ひとりで傷つく私。
どれだけおめでたいというのか。
「何から話せばいいのかな……」
部長は、波間のずっと向こう、水平線へと遠い目を向けた。
「二葉が俺を思って吐いた嘘を、どうして見抜けなかったんだろうな」
「……どうしてそれを?」
部長が悔しそうに下唇を噛み締める。
あっくんと生きていくと宣言したことが、どうして嘘だと分かったの?