パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを

「また会えて……よかったです」


二度と会えない、顔も見られないと覚悟していたから。
今日の日を胸にしまって、この先も生きていける。
そう思えた。

今度こそ本当の別れだ。


「部長、ありがとうございました」


会議室での別れのときは笑えなかった。
だから、本当の最後である今日くらいは笑っていたい。
精一杯の笑顔を向ける。

ふと見上げると、さっきまではなかった灰色の雲が、徐々に太陽を侵食し始めていた。
途端に鼻先にポツリと雨を感じた。
通り雨?


「海ニ、帰るよ」

「ちょっと待って」


夢中になって砂に手を伸ばしている海ニに声をかける私を、部長が「まだ話は終わっていないよ」と呼び止める。


「ふたりを迎えに来たんだ」

「……え?」


今、なんて……?
耳を疑う言葉が私に掛けられた。

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