パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
「嘘……」
そんなの……そんなことって……。
「もっと早くそうしていればよかった。二葉が行方をくらます前に。そうすれば、二葉に寂しい思いをさせずに済んだのに。本当にごめん」
そっと引き寄せられた。
硬直してしまっている私の背中を部長が優しくさする。
「二葉以外に愛せないんだ。もう、簡単に引き下がるつもりはない」
耳元で囁く。
胸が苦しくて呼吸もままならないのは、強められた腕の力のせいだけじゃない。
夢のような展開に、心が震えているから。
「マスターから聞いたよ」
「何を、ですか……?」
「あの子」
少し離れたところで貝殻を拾っている海ニに視線を投げる。
「“海ニ”っていう名前の意味」
「え?」
「大好きな人にもらった名前だって」