パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
「うん、ママのお友達。琴美ちゃんだよ」
「よろしくね、海二くん」
琴美が海二の頭を撫でると、海二は「うん」と元気に頷いた。
店員やお客の邪魔になりつつ再会を喜んだあと、私たちは琴美のいたテーブルへと着いた。
「この鼻は、相原さんの鼻だね」
私たちの向かいに座った琴美が、海二の顔を観察しつつ笑う。
通った鼻筋は、確かに私のものではない。
「笑った顔は二葉にそっくり」
「部長にもそう言われた」
メニュー表で遊び始めた海二にバッグから取り出した車のおもちゃを与えながら、部長が迎えに来てくれた海でのことを思い返した。
あの日のことを思い出すと、未だに胸がドキドキと高鳴る。
「ね、いつまで“部長”って呼ぶの?」
琴美がクスクス笑い出す。
そうだった。
もう、部長じゃないんだ。
言われて初めて気がついた。
つい以前と同じように呼ぶ私に、部長も何も言わないから。