パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
それはきっと、どれを着ようが、琴美は綺麗だということなんだろうけど。
一番似合うものを着て、最高の自分を見せたいというが女心だ。
「でも、私でいいの?」
「当り前じゃない」
琴美は顎を引いて真っ直ぐに私を見た。
「そういうことなら」
「それじゃ、詳しいことはまたあとでね」
嬉しい報告を済ませた琴美は、肩の荷でも下ろしたようにホッと息を吐いた。
「ところで、二葉たちは結婚式、やらないの?」
「え? 私たち……?」
そんなことは考えもしないことだった。
海二もいるし、今さら結婚式なんて……。
「考えてもみなかったって顔だね」
「うん……。多分、やらないかな」
結婚式に憧れはあるけど、今は部長と三人で暮らせるだけで幸せだから。
願うこともできなかった夢が叶った今、それ以上、望むものは何もなかった。
三人でいられれば、それでいい。
「そっか。二葉は本当に欲がないよね」
琴美は感心したように頷いたのだった。