パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
「はい。久しぶりに話せてよかったです。あ、琴美、池田くんと結婚するんですね。知ってましたか?」
「そうらしいな」
見上げた私に、部長が微笑む。
海二は、部長に抱かれてご満悦らしく、嬉しそうな顔で私を見ていた。
「それで、来週の日曜日に、ウエディングドレスを一緒に見に行ってほしいって言われてるんですけど……」
「行っておいで」
「海二をお願いしてもいいですか?」
さすがに、ドレス選びに海二を連れて行くのは場違いな気がする。
自分の名前を出されて、海二がポカンと私を見る。
「もちろん。海二、ふたりで公園にでも行こうな」
「うん!」
すっかりパパっ子だ。
「よし、いい子だ。さてと、パパはもうひと踏ん張り、この荷物たちと格闘だ」
部長は海二を下ろすと、その頭に手を乗せた。
部屋の中には、段ボールから出された本の類が山積みにされたままだったのだ。
相変わらず、片づけは苦手らしい。
変わらないそんなところが、なんだかやけに嬉しかった。
「部長、あとは私がやりますから、海二と遊んでもらえますか?」
「そうしてもらえると助かる」
部長は鼻の下をこすって照れ笑いを浮かべた。