パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
父親に叱られたときも、友達とケンカしたときも、いつだって優しく見守ってくれていたのはあっくんだった。
「俺は二葉の味方だよ」
いつもそう言ってくれてたから、恋心が芽生えるのなんて造作もないこと。
大好きで大好きで、あっくん以外になんて、目の向きようがなかった。
けれど、世間的には兄と妹。
その気持ちを伝えることも、好きな態度をとることも叶わない。
その苦しさを紛らわせるには、形ばかりの彼氏を作ることしか出来なかった私。
そんな辛い想いを密かに抱えてきたから、何度言われても“兄”という言葉は、私の胸をザックリと斬り付けるものだったのだ。
そしてそれは、どんな刃物よりも強力だった。
「よし、出掛けるぞ」
あっくんの号令で我に返る。
あっくんは、弾みをつけてソファから立ち上がると、私に振り返って小首を傾げた。
「二葉は何が欲しい?」
「……欲しいもの?」
それなら、あっくんが欲しい。
あっくんのその心を私にちょうだい。
それ以外の望みなんて、ちっぽけ過ぎる。
でも、当然のことながら、そんなことを言えるはずもない。