パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを

あっくんの真意が掴めないまま、その目を見つめる。


「こんなに朝早くから何ごとなの?」


緊張の糸をプツンと途切れさせる声が、私たちに掛かった。
奥の部屋から、パジャマ姿のお母さんが出て来たのだ。


「……二葉ちゃん、今帰ってきたの?」


私の姿をみて、激しい瞬きを繰り返す。


「……ごめんなさい」


素直に謝った。

初めての朝帰りは、やっぱりお母さんを驚かせてしまったようだった。


「とりあえず、お父さんが起きてきたら何を言い出すか分からないから、早いところ着替えた方がいいわ」


さすがは母親。
こういうとき、頼りになるのは同性の親に違いない。
でも、お父さんよりも、今はあっくんの態度の方が気になって仕方がない。
チラっと振り返ると、その表情は崩さないまま、バスルームへと入って行ってしまった。

朝帰りは事実。
でも、部長とはいわゆる一線を越えたわけじゃない。

付き合うことにはなったけれど、シャワーを借りたあと、夕べは別の部屋。
私にベッドを譲ってくれた部長は、ソファで眠ったのだから。

充血したあっくんの目。
初めて見せた、『兄』じゃない表情。
紗枝さんと笑い合うあっくんの顔。

いろんなものが頭の中をぐるぐる回って、何が何なのか分からなくなってしまった。

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