パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
そう言って部長は、サンドイッチを頬張った。
……どうしよう。
ずっと実家暮らしの私。
当然のごとくというか、はっきり言って料理は得意な方じゃない。
それなのに、私の口から出たのは『任せてください』という、立派な大嘘だった。
何をどう任せると言うのか。
自分の馬鹿さ加減に辟易する。
料理は苦手だと正直に言っていれば、墓穴を掘らずに済んだのに。
けれど、今さら引っ込みもつかず、そのまま自分のデスクへと戻った。
おかげで午後の仕事は手につかず、部長に隠れて、こっそりネットでレシピを確認するという有様。
ちゃんと作れるかな。
不安ばかりが頭をもたげる。
「ね、さっきから、顔色が悪いけど、どうかしたの?」
琴美に聞かれて、書き留めたレシピを慌てて他の書類で隠した。
「ちょっと、今、何隠したの?」
「何でもないってば」
必死に阻止したものの、琴美が無理矢理メモを取り上げる。