パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを

◇◇◇

十日ぶりに訪れた部長の部屋は、以前と変わらずに段ボールが積み上げられた状態のままだった。

買って来たばかりのスーパーの袋をキッチンへ運び、早速調理に取り掛かる。
肉を捏ねて、とりあえずキャベツに巻けばいいのだ。
多少の味の悪さは、トマトソースが誤魔化してくれるに違いない。
トマトに大きな期待をかける。


「あ! 牛乳買い忘れた!」


ひと通り材料を並べたところで、つい独り言が口から出た。

どうしよう。
今からもう一度買い出しなんて、ちょっと面倒だな。
ここの冷蔵庫にあるかな。
どうかありますように。

願いを込めて、扉を開く。
ところが、中を見て目が点になってしまった。
思わず一度扉を閉じて、今度はゆっくり開いてみる。
けれど、中の光景が変わることはなかった。
そこには、牛乳パックが山積みにされていたのだ。

どうしてこんなにたくさん?
部長がそんなに牛乳が好きだったとは……。

でも、とりあえず牛乳があって助かった。
早速一本を取り出し、調理に戻った。

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