パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを

お母さんに教わった手順をメールで確認しながら、慣れないキッチンで右往左往。
早く仕上げないと、部長が帰って来てしまう。
焦ると余計に段取りは悪くなる。
これぞ、料理下手という姿に他ならない。

鍋は?
鍋はどこだろう。

さすがに、食材以外のものは用意してこなかったけれど、よく考えてみればここは、男のひとり暮らしのキッチン。
調理用具が揃っていない可能性もあるのだ。

ところが、シンク下の扉を開けた途端、ガラガラと派手な音を立てて、鍋とボウルの山が飛び出して来た。
勢いに負けて、そばに座り込む。

……こんなにたくさん?

男のひとり暮らしとは思えないほど種類に富んだ鍋の数。
ボウルも小さいものから特大サイズまで、全てが揃っているように見えた。


「おい、大丈夫か!?」

「ぶ、部長!」


もう帰って来ちゃったの!?


「玄関入ったら大きな物音がして驚いたよ」


言いながら、座り込んだ私の手を引いて立ち上がらせる。

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