パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
「そうだなぁ……ブルガリの時計!」
「オイオイ……随分と大きく出たな」
あっくんは鼻先で笑った。
「だって、可愛い妹でしょう? たまには奮発してよ」
……“妹”だって。
自分で言って、自分で傷ついてちゃ世話がない。
腕を絡ませてねだってみるけれど、あっくんは「彼氏にでも買ってもらうんだな」と、スルリと腕を抜いて逃げてしまった。
「ふーんだ。彼氏なんかいないもん」
「……この前の男はどうしたんだ」
あっくんが眉を潜める。
この前の男……?
そう言われてもピンとすらこない。
私は、その“男”のどこを見ていたんだろう。
顔は思い出せても、名前はあやふや。
好意を寄せられて付き合うことになっても、結局最後は私が振られて終わり。
それも当然かもしれない。
心ここにあらずの彼女を変わらず愛せるはずがない。
「別れた」
私のひと言に、なぜか一瞬、あっくんから表情が消え失せる。