パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
「早速やってくれたのか。ありがとう、助かったよ。俺ひとりだったら、きっと何カ月もあの状態のままだっただろうから」
部長は私の期待通り、“いい大人の昼寝”の話題から逸れてくれた。
スーツのジャケットを脱ぎ、私の隣に腰を下ろす。
「それで、これなんですけど……」
エプロンを指差すと、部長は寂しげな表情でそれを見つめた。
「どこに片付けたらいいのか分からなくて」
「……ごめん。俺って気が利かないよな。こういうものは、自分で処分するべきなのに」
「そんなことは気にしないでください。でも、料理が上手な彼女だったんですね」
「いや、ほんと、ごめん……」
申し訳なさそうに眉尻を下げる。
部長を困らせる気なんて全然なかったのに。
部長はキッチンからごみ袋を持ってくると、その中にエプロンを放り込んだ。
「いいんですか?」
「いいも悪いも、もう必要のないものだからね」
どことなく寂しげな目元。
ゴミとしてエプロンを片づける毅然とした態度とは裏腹な表情に、私まで辛くなる。