パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを

優しく微笑んだ。
部長の温かい手が冷たい頬に熱を与えて行く。
その温もりは、冷え切った心にも染みていくようだった。


「あったかい……」


でもそれは、その手のせいだけじゃないのかもしれない。
優しく注がれる部長の視線も温かいから。

どうしてだろう。
部長と一緒にいると、心がどんどん穏やかになっていく。

あっくんと向き合うと、見えるのは暗闇ばかり。
一点の明かりさえ見えなくて、辛くて苦しくて、呼吸もできなくなる。
それなのに、部長だと全然違うのだ。
それは、他の誰にも感じたことのないものだった。

頬から手を離すと、部長はそのまま私を抱き寄せた。

元カノの代わりでもいい。
今、腕に抱いている私を彼女だと思っていてもいい。
だから、もう少しの間、部長の胸を貸してほしかった。
私に対するものじゃない温もりを、今は私だけのものだと思いたかった。


「あ、そうだ。稲森、ちょっとカギ貸して」

「カギですか?」


思い出したように私から離れると、脱いだジャケットのポケットを探る。

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