パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
そして、「あったあった」と呟くと、私に背を向けてゴソゴソとし始めた。
私もバッグからこの部屋の合鍵を取り出し、それを部長に手渡す。
一,二分後、戻って来た合カギ。
そこには、キーホルダーが付けられていた。
「稲森の名前、二葉にちなんでみた。ガラス細工の“二葉”だ」
四つ葉でも三つ葉でもない、二枚の葉をガラスでかたどった、薄いグリーンのキーホルダーだった。
「……気に入らない?」
それを見つめたまま何も言わない私に、部長が心配そうな顔で問い掛ける。
「いえ、違うんです……」
「どうかした?」
「実は私、自分の名前、あまり好きじゃなくて……」
四つ葉のクローバーは幸せの象徴。
私には二枚しか葉がないから、幸せも遠くに感じていた。
だから、想いが一生通じない相手に恋なんてしたんだと。
「よく見てみなよ。ほら、“二葉”はハートの形にも見えるだろう? 四つ葉よりももっと幸せな形だと思わないか?」