パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
そんな風にして、私の気持ちを引き上げてくれた人は今までいなかった。
嬉しくて、熱いものが込み上げてくる。
「あっ、ごめん。そうだよな、俺の名前なんていらないよな。俺、何言ってんだろうな」
思わず溢れた涙に部長がまごつく。
「違うんです。嬉しくて」
指先で涙を拭い、部長に笑顔を向けた。
「でもそれじゃ、部長の名前がなくなっちゃう」
「心配するな。俺の名前は“二”を取っても、ニンベンが残るだろう? それだけで“ジン”と読めるから」
誇らしげに笑った。
「ただ、呼ぶほうとしては、“四つ葉”よりも“二葉”のほうが可愛いと思うんだけどな」
「……はい?」
「二葉」
耳に優しく届けられる、部長の声。
もう一度抱き寄せられて、温かい気持ちに包まれて行く。
「……二葉」
「はい……」
「だからもう、名前が嫌いなんて言うな」
その腕の中でコクンと頷いた。