パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを

「病人なんだから、そんな気遣いはいらないぞ」


キッチンへ向かおうとした私の手を部長が掴む。
いいから座ってと、両肩を押さえて座らされてしまった。


「それで、具合はどうなんだ?」


しげしげと私の顔を観察するから、恥ずかしくなって俯いた。
スッピンだから、そんなに間近で見ないでほしいんだけど……。


「ずっと眠っていたので、随分良くなりました」


視線を向けられないままでいると、額に伸びて来た手。


「……うーん、まだちょっと熱っぽいな」


顎に左手を添えて、首を傾げる。


「あの、仕事は?」

「外に出る用事があったから、ちょっと遠回りして寄ってみたんだ。二,三日前から調子悪そうにしてたから、気にはなってたんだけどね」


……気づかれてたんだ。
職場では仕事に没頭しているから、気に掛けてくれるような素振りは見えなかったのに。

< 89 / 282 >

この作品をシェア

pagetop