パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
周りはちゃんと見ているんだと思い知って、いい上司に巡り合えたと嬉しくなる。
「俺が風邪をひかせたようなものだし」
「……どうしてですか?」
「ほら、俺の部屋のソファで眠りこけてたことがあっただろう?」
「あれは、私が勝手に眠っていただけですから」
部長のせいなんかじゃない。
「それと……」
「……それと?」
「ホワイトシチュー。この前、作っておいてくれただろう? ごめん、会社じゃ言いそびれてたから。すごく旨かったぞ」
私の頭にポンと手をのせる。
「……食べたんですか?」
「当然だ」
きっと、元カノみたいに上手には作れていないだろうに、大袈裟に何度も「旨かった」なんて、逆に恥ずかしくなる。
その話題はもうやめてほしい。
「それから、今日、誕生日なんだって?」
「あ……実はそうなんです」