パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを

でも、どうして部長は知ったんだろう。


「会社を出るときに、木下と池田が『誕生日なのに風邪なんて可哀想』って話してたのが聞こえたんだ」


そうか。琴美と池田くんが。


「何で俺に言ってくれなかったんだ」

「……なんだか、自分で申告するのもどうかなって」


ごにょごにょと誤魔化す。

部長との関係は、彼氏と彼女というのとは、どこかちょっと違うような気がするから。
どうしても遠慮してしまう。


「これでも、結構ショックだったんだぞ? 一応、彼氏だし」

「……ごめんなさい」


自分から一歩引いたくせに、“一応”という言葉がやけに胸に突き刺さる。
“一応”は彼氏と彼女。
確かにその通りなのに。


「おかげで、こんなものしか用意できなかったじゃないか」


そう言って、ケーキの入っていそうな箱を差し出した。

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