初恋は叶わない
「浴衣着るのはいいけど、また出かけるの?」


お母さんが不思議そうに聞いてくる。

そうだよね、今帰ってきたとこだし。


「え?あ、別に約束とかは、ないんだけど」

「家で浴衣着る気なの?」

「だってぇ、お姉ちゃんだけズルイよー!
私も着たいー!今年最後の花火だよ?
もう着るときないじゃん!」


やっと今年から、お姉ちゃんのお下がり浴衣じゃなくなって、

私の好きな柄、選ばせてもらえるようになったのに。

昔っから、お姉ちゃんは、赤とかピンクとか、

女の子女の子した柄が好きだったけど、

私は、そういうの苦手で。

だから今年、

ホントに自分が気に入ったものを着れるのが、嬉しかった。

優しい水色に色とりどりのアジサイ模様。

一目ぼれして買ったはずなのに、

ずっと出番がなかった。


「自分がめんどくさいって言って、
お祭り行かなかったからでしょう!」

「お祭りの時は、ホントに体ダルかったんだもん。
めんどくさいのとは違うよっ!」

「はぁ。
わかったわよ。着ればいいじゃないの、着れば」


呆れたように溜息をついた後、

多少投げやりな感じだけど、折れてくれたお母さん。


「ホント?」

「ホントよ。
その代り今日は晩御飯、手抜きでいいでしょ?」

「ありがとっ、お母さん!
大丈夫、たこやき食べてくるからっ!
浴衣どこ?浴衣!」

「リビングにあるでしょ。
涼しい部屋で着付けないと、すぐ汗だくになるから」


そうだった。

思い出した。

お姉ちゃんの浴衣姿がかわいくて、

ついその気になってしまったけど、

浴衣って暑くて苦しいものだったんだ…。
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