初恋は叶わない
「かりんー!落ちるわよー!」


お母さんが何事かと顔を出すのにも、かまってられなくて。

慌てて引っかけた下駄に、転びそうになりながら、玄関を飛び出すと、


「おす!」

「お、おす。
じゃないでしょー!何やってんの???」

「これ、返そうと思って。」


笑いながら目の前に差し出されたのは、昨日貸したばかりのノート。


「もう?いいの?」

「早くって言ったのそっちだろ!」

「あ、そっか。…まあ、そうだけどさ」

「それに、…ちょっと気になって」

「え?」

「まだ落ち込んでるかと思ってさ」

「あ、あの、メールしようと思ってたんだけど。
変なとこ見られちゃったし、なんて言っていいかわかんなくって…。
けど、もう大丈夫だから。」

「立ち直り早いな。」

「そうでもないけど」


なんとなく歯切れの悪い話し方が気になったけど、

それはお互いさまだった。

探り探り話してるっていうのかな、

遠慮して、言葉を選んで、

いつもみたいな感じには、話せなかった。



早川はきっと、

私が修ちゃんに振られて落ち込んでると思って、

気を使ってるんだろうな。

そりゃ、そうだよね。

私だって、確かに、落ち込んで、泣いちゃったりもした。

だけどいつのまにか、それだけじゃない気持ちが、

自分の中に生まれてる。

それが何なのか、はっきりとはわからないんだけど、

どんどん大きくなってる気がして怖くて。

自分でも説明のつかない感情に、戸惑っていた。
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