初恋は叶わない
「すげぇ人だな。

もうちょい空いてからじゃないと、自転車は無理か」


なんでそう普通でいられるのかな。

いつまでも、さっきのセリフに引っかかってる私が悪いの?

一人で動揺してるみたいで悔しいから、

負けじと平静を装うと、


「そだね」


って、そっけないくらい短く返す。

足の裏についた土を払って、モゾモゾと下駄を履きなおすと、

自転車を押す早川と並んで歩いた。

時々つんのめって、転びそうになるのを、

隣で耐えられないというように、

早川が下を向いて肩を震わせている。


「言っとくけど、ホンットにこれ、
歩きにくいんだからね!」

「別に何も言ってないし」

「言わなくても顔見ればわかる。
人のことバカにしてるの」

「別に、バカにはしてないって。
…女って大変だなぁと思っただけ」

「へ?」


思わぬ答えに、我ながらなんとも間抜けな相槌。


「そういうのって歩きにくいだけじゃなくて、
暑いんだろ?苦しそうだし」


言いながら、まじまじと見てくる視線に、

意味はないとわかっていても、

なんだか落ち着かない。


「そりゃそうだけどさ。
でも、こういうイベントの日は特別っていうか。
暑くっても苦しくっても、
頑張って浴衣とか着たいもんなの、女子は!
そういう女心わかんないかな?」


私は一気にまくし立てると、

浴衣の袖を振りまわして見せた。
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