初恋は叶わない
勢いで店を飛び出してきたものの、

帰る方向を見失って、

きょろきょろしている私の腕を、

後ろから来た早川が掴む。


「きゃっ」

「ちょっと来い!」

「痛いって。ちょっと、何?!」


自転車置き場まで引きずるように連れて来て、

ようやく手を離すと、


「なんだよ、さっきの」

「さっきのって?」


早川に話すことじゃない気がしてとぼけるけど、

そう簡単に許してくれそうになかった。


「何怒ってんだって聞いてんの!」

「怒ってないよ!」

「怒ってるだろ!
テキトーな事言って誤魔化すなよ!
余計気になるって」


図星なだけに、返す言葉も思いつかなくて。

もう何もかも話してしまいたいような、

そんな気の迷いに、頭をブンブン振った。


「とにかくっ!…あんたは気にしなくていいから。
明日練習、朝早いんでしょ?
もう、帰ろうよ!」


違う話を持ち出して、

無理やりにでも終わらせようとする私の言葉が、

余計癇に障ったのか、


「いい加減にしろよ!
俺だって気にしたくないけど、
気になるもん仕方ねぇだろ?」


早川の声が、少し大きくなる。

そのせいで、周囲の目が一瞬、

こちらに集中した。

私達はその場をやり過ごすために黙りこみ、

おかげで冷静になれたけど。
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