初恋は叶わない
「早く乗れば?」

「…ヤダ!」

「ヤダって言われても、」

「ヤダ。まだ帰んない!」


私は一体何を言ってるんだろう?


もう一人の自分が、俯瞰で今の自分を見ているような感覚。


「どしたんだ?」


困惑した瞳が、下から私を覗き込んでくる。


「ま、俺が誘ったんだし、最後まで付き合うけどさ」


ため息交じりに呟く早川。


きっと呆れてるんだ。


恐る恐る顔をあげたら、バッチリ目が合って、

とたんに我に帰った私は、慌ててハンドルを放した。


「あ、あの、えっと、」


何も言葉が見つからず、耳の先まで熱くなっていく。


「どっか、行きたいとこある?」

「ない、けど」

「んじゃ、おまかせってことで」


私は黙ってコクリと頷くと、

逃げるように後ろに腰かけた。

まばらになり始めた人波を避けて、

脇道にそれた自転車は、

ぐんぐんスピードをあげていく。

その間中、私は不思議な気分でいた。


なんで、あんなこと言っちゃったのかな。

もう十分すぎるくらい、付き合ってもらってるのに。

やっぱり厚かましいよね。

っていうか、

『帰りたくない。』とか言っちゃって、おかしいよ絶対!
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