初恋は叶わない
「お人よしっつーかなんつーか。
そういうとこ、悪いとは言わないけどさ、
もうちょっと、自分のことも考えてやれば」

「自分のこと?」


言われてみればそうかもしれない。

だけど今は、そんな気にはなれなかった。


「私はただ…、
修ちゃんがあんなに想ってるのに、なんで?
なんであんなこと、平気でできちゃうのかなって」


もう泣いてるの、見られたくなくて、

なるべく感情を込めないで話す。

それでも、また悲しくなりそうな私に向かって、


「恋愛なんて、そんなもんだろ?
誰も傷つかないなんて、ありえないわけだし」


なんて、さらっと言ってくれちゃって。

そんなこと言われなくても、

私だってわかってるつもり。
でも、だからって、

何してもいいってことにはならないでしょ?


「それは、そうだけど。
それならどうして一緒に海に行ったりするの?
突然、夜中に呼び出したり、」


反論しかけてはっとして、途中で言葉をのみこむ。

感情が高ぶると、考えながら話すのは難しい。

つい余計なことまで、口走ってしまう。

だけど、早川はあえてそこには触れず、

ただ私の疑問に答えてくれた。


「うーん、その辺は本人じゃないから、なんとも言えないけど。
寂しいんじゃないの?ただ単純に。
だから、ついつい修一さんの優しさに甘えてしまう…」

「そんなのって!」

「ヒドイよなー。
呼び出される方の身にもなれっつーの」


って、薄く笑いながら私の言葉を受け取る。


「けど、男なんて単純だから、
案外、嬉しかったりするんだって。
好きな人に頼りにされたりしたらさ。
他人から見れば、ホント哀れなヤツかもしんないけど」


そこまでは軽い口調だったのに、急に真顔になり、


「もし、修一さんが、
それでもいいって思ってるなら、
誰にも何も言えないよ。
だろ?」


早川が静かにそう話す間、私は視線をそらすことができなかった。


男同士だからわかることもあるのかな。


その言葉は、不思議な説得力を持って、

私の心に染みていく。

そして、どことなく切なげな瞳に、

それ以上の何かが見え隠れするような。

私はそれを知りたい気持ちを抑えられずに、

見つめる瞳の奥の奥まで、読みとろうとするけど。

そんな私に気づいたみたいに早川は、

照れくさそうに横を向いてしまい、

次にこちらを向いた時には、

もういつもと変わらない彼だった。
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