初恋は叶わない
早川からの初メールは、

タイトルなしの、

要件以外、何も書いていない、

なんとも味気ない文章だった。


『今着いた
おやすみ』


って、あんまりにもらしくて、笑っちゃった。

だけど、ここまで短いと、

こっちも簡潔にまとめなきゃいけない気がして、

何度も直した結果、

こんな感じに。


『花火、楽しかったです。ありがとう。
おやすみなさい。』


ホントは、もっといろいろ、

メールなら言えそうなことも、あるのかもしれないけど。

あんまり長くなって、ウザイと思われるのもヤだし。

残念な気持ちもありながら、送信ボタンを押した。

まるで一仕事終えたみたいな気分で、

冷蔵庫を開けると、またメールが届いた。


『親、大丈夫だった?』


さっきのに負けないくらいの文字の少なさ。


『ちょっと怒られたけど、たいしたことなかったよ。
大丈夫<ピース>』


もう少し続きそうなやり取りに、

頬を緩めつつ、また送信。

ようやくコップに注いだオレンジジュースを、

勢いよく流し込んで、口を付けたところへ

今度は、着信音が鳴る。


「もしもし!?」


ビックリしすぎて、むせながら出ると、


「もしもし」


正反対に向こうは冷静。


「どうしたの?」


「いや、
ちょっと気になったから。

やっぱちゃんと玄関まで送って、
一緒に謝った方がよかったんじゃないかって。

悪かったな。
お母さん怒ってた?
ひょっとして、外出禁止?」


「ないない。
そんなことで電話くれたの?
心配しすぎだよ。
平気、平気!ホント、大丈夫だから」


「んー。ならいいんだけど」

「ん。ありがとね」


どこまでいい人なんだろう、この人は。

そんなに優しくされると、どうしていいかわからなくなる。

どこまでも甘えてしまいそうな自分に、

ブレーキ掛けられなくなりそうで、ちょっとコワイくらい。

慣れない女の子扱いも、嬉しくないわけないけれど。

逆に、向こうが男の子だってことも、

意識せずにいられなくなるわけで。
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