初恋は叶わない
「かりんー!寝るなら、部屋行きなさい!」


うわ、私ってば寝ちゃってたんだ…。

自分がまだリビングにいるってこと、

お母さんに揺すられて気がついた。


「わかったよ、もう…」


せっかくいい気持ちだったのにぃ。

けど、お父さんが帰って来たら、

またうるさいしな。

仕方ない。


体を引きずるようにしてソファから這い出すと、

私はほとんど目をつむったまま、

手探りと勘をたよりに部屋までたどり着いた。

ドアを開け、電気もつけずに、ベッドへダイブする。

やっぱ、こっちのが気持ちいい。

けど、暑い。

いつも決まった場所に置いてあるクーラーのリモコンを、

暗闇の中で押してから、数秒。

涼しい風が出始める頃には、もう力尽きていた。

深い深い眠りの真っただ中、

ベッドの中でこもったような音が、

振動とともに、しつこく存在を主張している。

寝ぼけたまま、手を伸ばし、耳に当てると、


「もしもし!もしもし!?」


切羽詰まったような呼びかけが、

頭に響いた。


「は?…誰?」


返事しなくちゃって思っても、

頭がまだ寝てるから、まともな言葉が出てこない。


「かりん!?やっと出たと思ったら、
寝てんのかよ、ったく!
俺だよ、俺!」

「んー?俺って?…誰ですかぁ?」


あれ、なんか怒ってる?


それだけは何となく、理解できた。


「俺だよ、修一!
寝ぼけんのもいいかげんにしろ!この不良娘!」


「修一?修一…、って、修ちゃん!?」


何?なんで修ちゃんが?


「そうだよっ!
はぁー。のんきでいいなぁ、お前は。」

「えっと、どうしたの?ってか、今一体、何時?」


ベッドの脇に置いた目覚ましは、二時半を指していた。

思ったより早い。

そっか、私今日、花火行って疲れて、それで…。

今日あった色んな事が、頭の中を駆け巡って、

ぼんやりしていた意識が、一気に覚醒する。

こんな時間にわざわざ電話してくるなんて、

何かあったのかな?

しかもあんなに怒った声だし。

ひょっとして、もうレイナさんから聞いちゃった?

私が余計なこと言っちゃったの、もうバレちゃったの?
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