初恋は叶わない
「お腹空きすぎて、

 ちょっと気持ち悪くなっただけだよ。

 でも窓あけたら、すーっとした。

 何か元気出てきたみたい」

「よぉーし。んじゃ、泳ぐぞーっ!」

「その前になんか食べたいんですけど・・・」

「わかってるって!

 溺れられたりしたら、こっちが大変だからな。」

うぅ、憎たらしい、けどまあいいか。

やっといつもの会話ができた気がして、ほっとする。

ずっとギクシャクしてたのは、私が変に意識しすぎてたせいなんだ。

「普段通り」って、こういうことかと、

早川のさっきの言葉が、すんなり入ってきた。

もうちょっと言い方あるだろうって気もするけど、

まぁらしいと言えばらしいのかも。

憎まれ口叩きながらも、実は結構優しいヤツなのか?


海を前にしてじっと座っていられず、

ドアの前に立つ横顔から目が離せなかった。

キュンって胸がしめつけられて、

ずっと見ていたい気持ちがして、

もうそこまで海が近づいてるのに、

このままもうちょっと乗っていたいような。

さっきまで、あんなに海が待ち遠しかったのに。

自分でも呆れる。

でも、早川のこと、

なんとなく「好きなのかな?」ぐらいにしか思ってなかったのに、

どんどん意識し始めている自分がいる。

こんなに長い時間二人でいたのは、初めてだけど、

もっと聞きたい、もっと知りたいって思ってきて。

その気持ちに素直にならなきゃダメなんだ、きっと。

なぜか今日はそんなふうに前向きに思えた。

積極的にはなれなくても、後ろ向きになる必要ないよね?

< 30 / 159 >

この作品をシェア

pagetop