初恋は叶わない
「ほら、修クンも、」


レイナさんが運転する修ちゃんの腕を、

肘でつついて催促する。

信号で止まるのを待って、

修ちゃんがやっと口を開いた。


「新谷修一です。19歳。大学はレイナさんと同じ。
学部は経済学部。」


ぶっきらぼうに言うと、信号が青に変わって、

また運転に集中する。

何がいけなかったのか、

ウソみたいにむっつりと口をつぐんでいる修兄と、

流れる景色に目をやるレイナさんの間の、

ビミョーな距離感が気になる。

小声で早川が、


「おい、俺ら、降りたほうがよくねぇ?」


って聞いてきた。

私だってできることなら、

このいたたまれない状況から脱出したいけど、

実際、そんなの無理だし!

それ以上に、

ぼんやりと窓の外を見ているレイナさんの横顔が、

寂しそうで目が離せなかった。

さっきまでの楽しそうな様子とはまるで別人のようで。


「孝くん、うちどのへん?」


いきなり修ちゃんに話しかけられて、

早川の肩がビクっとする。


「あ、俺、駅前に自転車停めてるんで、

 そこで降ろしてもらえますか?」

「あ、私も駅でいいよ」

「オッケー、了解」


修ちゃんは前を向いたまま、軽く手を挙げるだけ。

結局駅に着くまでの間も、着いてからも、

一度も後ろを振り返らなかった。
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