初恋は叶わない
昨夜は結局あんまり眠れなくって。

寝ぼけ眼でリビングへと降りていくと、出勤前のお母さんがいた。


「珍しいわね、起きてくるなんて。
 ちゃんと朝ごはん食べなさいよ」


忙しそうにパタパタとスリッパの音をさせ、

目の前を行ったり来たりするお母さん。


「パン食べよっかな~」

「冷蔵庫にヨーグルトもあるし。
 食べたらちゃんと片付けといてね」

「は~い」


と返事はしたものの、テーブルに肘をついたまま、
ぼーっとしてしまう。


「かりん、今日、修ちゃんのとこ行く日でしょ」

うわっ。そうだよ、今日って水曜日だったんだ!
今ので一気に目が覚めた。


「冷蔵庫に昨日送ってきたぶどうがあるから、
おすそわけ持ってってほしいの。
お母さんすぐ忘れちゃうから、かりん覚えといてね」

「わかった」


とは言ったものの、昨日の今日で顔を合わせるのはなんかちょっと気が重い。
かといって、行かないのは余計に気まずい気がするし…。

なんとかして逃れられないか、方法を考えていた。

「じゃ、お母さん行ってくるから。
かりんも一日中ダラダラしてちゃダメよ」

「わかってるって!いってらっしゃい」

「いってきます」


しんとしたリビングに一人になった途端、

やっぱり今日も暇な自分を自覚してしまう。

昨日のことは夢だったんじゃないかと思えるほどだ。

けど、恥ずかしいほどくっきりとビーサンの型が残る足、

指でそっとなぞると、ピリっとした痛みが走る肩先。

やっぱ夢じゃないんだよね。
< 55 / 159 >

この作品をシェア

pagetop