初恋は叶わない
「ま、そう落ち込むことないって。
修一だけが男じゃないんだし。
大体かりんはアイツを美化しすぎなんだよねー。
そりゃ、私もちょっと意外だったけどさ。
優しいだけが取り柄だと思ってたのに、
公衆の面前で女の子泣かしちゃマズイよね。」


お姉ちゃんって言ったって、
ちょっと早く産まれてきたってだけなのに、
なんでそこまでエラソーになれるの?


私のことだけならまだしも、修ちゃんのことまで、
馬鹿にしたみたいな言い方して。
修ちゃんだって、
何も泣かせようと思って泣かせたわけじゃないはずなのに、
それをおもしろおかしく話す無神経さが許せなくて、


「何にも知らないくせに、テキトーなこと言わないで!」


怒りにまかせてバスルームの扉を思いっきり閉めた。


「何よ!バカ!せっかく教えてやったのに!」


ガラス越しに叫んでるお姉ちゃんの声をかき消すように、

シャワーの蛇口をひねる。


「冷たっ!!
もう、何よ!…お姉ちゃんのバカっ!」


なんでこんなにイライラするんだろう?
自分でも何に腹が立っているのか、よくわからない。
お姉ちゃんが修ちゃんの悪口言ったから?
彼女って言葉に、レイナさんの顔が浮かんだから?


それもあるけど…、

私、今一瞬、喜んでた。

修ちゃんが彼女と、
レイナさんとダメになったかもしれないって聞いて、
ちょっと嬉しいと思ってしまったんだ。
信じられなかった。

二人がうまくいけばいいなって、
さっきまでホントにそう思ってたはずなのに。
自分がこんなにヤな子だったなんて、
信じられないし信じたくない。
自分でもよくわからない自分の気持ちに振り回されて、
頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。


これっていわゆるヤキモチ?

ってゆーか、好きな芸能人に熱愛が発覚したときの、
ファンの気持ちみたいな、あれだよね?


「ホントは修ちゃんのことが好きなんじゃないの?」


いつか言われた言葉が頭に浮かんで、


「そういう『好き』じゃないもん…」


自分にいいわけするみたいに呟いた言葉は、
出しっぱなしのシャワーの音にかき消されて、
泡と一緒に流れていった。
< 57 / 159 >

この作品をシェア

pagetop