初恋は叶わない
ヤなことは、体動かして、

汗かいて忘れるのもいいかもしれない。

だんだんリズムに乗ってきて、

ちょっとはコツがつかめてきたみたいだし。

パンチのたびにパシッ、パシッと、いい音がする。



「いって、ちょっ、お前!
だんだん強くなってない、か、っておい!」



「こいって、言ったの、そっち、でしょーが!」



もう息も切れ切れで、ホントは限界だったんだけど、

ついつい強がっちゃって。

最後に一発、スゴイのお見舞いしてやろうとして、

思い切り腕を引く。

なのに、その渾身の一撃は、

拳ごと早川の手のひらでがしっと掴まれてしまった。



「そうはいくかっての!」



得意げにしてる早川のおっきな手から逃れようと、


どんなに引っ張っても抜けなくて、



もう片方の手で、指を一本ずつはがそうとするけどそれもダメ。



「参ったか!」



「うー」



「参った?」



「参らない!」



結局自分が勝ちたがるんだから、いい性格してるよね。

いつまでたっても解放されない自分の右手をまじまじと見つめ、

やっぱり男の子なんだなぁって、力の差を感じてしまう。

すっかりおとなしくなった私に、



「降参?」



なんてわかりきったこと聞いてくる。

悔しいから絶対言いたくないけど、

言うまで許してくれないんだろうし。



「…降参。」


「よしよし。」



早川は一人満足げにうなずき、


ようやく私の拳は自由になった。
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