初恋は叶わない
停めた自転車にゆっくり歩み寄り、


「じゃあな、これサンキュ」


振り向きざまに敬礼のような仕草をして見せる早川。


「うん。おやすみ」


手を振って、サドルに跨ったと思ったら、

男の子らしい節の太い指が伸びてくる。

うわ、デコピン?と思わず目をつむって身構えていたけど

いつまでたっても、なんの痛みも衝撃もない。

そっと目を開けると、その手はふわりと髪の上を滑っていった。

まるで壊れ物を扱うように、ゆっくりと、繊細に。



「なんちゅー顔してんだ。帰れないだろ?」

「へ?」



なんて間の抜けた返事してるんだろう。

だって、言われてる言葉の意味がわからない。


「大丈夫か?」


覗き込むように顔を傾ける早川の、

心配そうな声が胸に染みて、

また泣きそうになる。



「ほらぁ、その顔!」



って、あぁ、そういう意味か。

そんなの私に言われたって、そっちが優しいこと言うからなのに。

そういう無意識に出る優しさが、私の中で修ちゃんと重なる。

そのせいで余計に泣きそうになってるなんて、

早川にわかるわけないよね…。



「ま、そう落ち込むなよ。俺でよかったらいつでも殴られてやるし。」

「何それ?人を凶暴女みたいに!」

「違うのか?」



もうフラレたってことになってるのも、いいやって感じで、

わざわざ否定する気にもならず。

いつまでも終わりそうにない掛け合いを、無理やり終わらせようと、


「おやすみ!」


不機嫌そうに言う私を見て、早川はなぜか嬉しそうに笑ってる。


「おやすみ。」


って、前を向いたまま手を振るその背中は、

あっというまに暗闇に吸い込まれて見えなくなった。
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