初恋は叶わない
あまりにあっけないバイバイに、


まるで夢の中の出来事みたい…。


そんな不思議な気分に浸っていると、



「かりん?表にいるの?」



玄関の灯りがついて、お母さんの声がする。


「はーい!」


重ね着したタンクトップから出た腕を庇うように抱きしめながら、

玄関へと歩き出す。



さっき、この腕ごと全部抱きしめられてたんだ。



せっかく忘れてたのに、

また思い出してしまって、顔が火照ってくる。

修ちゃんのおかげで、というか修ちゃんのせいで、

私にも『人恋しい』って言葉の意味が、

何となくだけどわかったような気がした。

今までは、なんか都合いい言葉だなぁって、

『寂しい』と同じじゃないの?って、

ただそれだけだったけど。

キスさえしたことなかった私が、

こんな事に気づく事自体あり得ないと、

自分でも思う。

みんなが色々えっちな話とかしてるの聞いても、

正直理解できなかったし。

別れようと思ってる相手とずるずるしちゃうとか、

彼氏がいないと元彼に会いたくなっちゃうとか、

そういうの、

どっちかっていうと軽蔑してたかも。

でもね、話聞いてもらうだけでも、それだけでも、

相手が異性の方がいいと思うときってあるんだなって、

さっき、早川を見送りながら、そう思ってしまった私がいた。

泣きそうな私の頭の上にのせられた手のひらに、

心からほっとしたから。

他の誰かに思いを残しているのに、

修ちゃんを呼び出すレイナさんを許せない自分がいるのに、

修ちゃんのこと気にしながら、早川の優しさに慰められてる。

結局私のしていることは、

レイナさんと変わらないのかもしれない。

もちろん、自分を好きって言ってくれる人の気持ちを利用するようなことは、

許せないと思うし、私は絶対しない!

その気持ちは変わらないけど、

今までみたいに強くは言いきれなくて。

人の気持ちって、理屈だけじゃ割り切れないこともあるってよく言うけど、

こういうことなんだろうか?


『そんなこと、疑問にさえ感じたことなかったのに』って、

軽い自己嫌悪に陥りながら。





さっき修ちゃんの腕が私を抱きしめたのは、

きっとそれだけ苦しい恋をしている

証拠なのかもしれない。





そんなふうに思える自分がいるなんて、

自分でも知らなかったこと。

心はあんなにレイナさんを追いかけているのに、

私に触れた修ちゃんを許せてしまう。

あの時の修ちゃんは、私に何を求めていたんだろう?

たとえ相手が好きな人じゃなくても、

誰かの温もりを求めてしまう瞬間って誰にでもあるんだろうか?


せめて、その『誰か』は誰でもいいわけじゃないと思いたかった。


心を許している人?

一緒にいて安らぐ人?

そういうことしても怒らない人?

修ちゃんにとって私はどれにあてはまるのかな・・・?

私にとって、早川はどれにあてはまる?
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