初恋は叶わない
リビングに顔を出さずに、

自分の部屋に上がってしまった私に、


「かりん!お風呂入んなさいよ!」


階段の下からお母さんの声がする。


「はぁい!」


とりあえず返事はしたものの、

もうちょっと落ち着いてからじゃないと、

お母さんの顔まともに見れそうにないよ。

枕に顔を突っ伏して、出てくるのはため息ばかりだった。


「はぁ~」


ケータイの画面を見つめ、


「明日、だよね…」


そうだよ、明日、みか達来るんだ。

もういろんなことがありすぎて、

何を話したらいいのかわからない。

自分がどうしたいのかも、どこまで話していいのかも。

わからないことだらけで、ぐちゃぐちゃの頭の中。

そのままタオルケットにくるまって、うとうとしながら、


「あ、冷蔵庫にブドウ入ってるの、修ちゃんに言うの忘れた・・・」



メールしとけばわかるよね?



寝ぼけながらケータイを開くと、

青い光が眩しくて思わず目をそらす。



まだ二人、一緒なのかな・・・?



そう思うと、ケータイを鳴らすのも気が引けて、

そのままパタンとたたみ、目を閉じた。

朝方、ようやく眠りにつきかけた私は、夢の中で、

修ちゃんのバイクのエンジン音を聞いたような気がした。



帰ってきたんだ…。



そう思うとなぜかほっとして、

そこからお母さんに起こされるまで、

一度も目覚めることはなかった。
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